サイバー犯罪を暴くデジタルフォレンジック

更新日:2025.01.30 投稿日:2025.01.30 情報セキュリティ

執筆者:VNW事務局 コラム担当

デジタルフォレンジックは、デジタルデバイスからの証拠を収集、保存、分析するプロセスで、サイバー犯罪やデジタルデータに関連する事件の解明において、非常に重要な役割を果たしています。そして、その必要性と重要性は、サイバー犯罪の脅威が増加している現代において、ますます高まっています。本記事では、デジタルフォレンジックのあらましから、プロセスや必要技術、法律と倫理面での留意点、そして今後の展望までを説明します。

デジタルフォレンジックとは?

デジタルフォレンジック(Digital Forensics)とは、デジタルデバイスに保存された情報を収集し、法的な手続きをも支援できるように解析するための技術やプロセスを指します。その目的は、証拠としてのデジタルデータを効果的に取得し、それに基づいた洞察を提供することであり、コンピュータ犯罪やサイバーセキュリティ事件、企業の不正行為の内部調査、不正アクセスの追求など、さまざまな情況で利用されています。さらにはデジタル遺言の有効性検証などの、新たな活用範囲も出てきています。

この調査/操作活動は、サイバー犯罪の増加やデジタルデータの扱いが一般化する中で、法執行機関や企業にとってますます重要な役割を果たしています。その重要性には、いくつかの要因があります。

サイバー犯罪の増加

デジタルデータの流通とその保存手段が多様化する中で、サイバー犯罪の件数も増加すると共に、その内容も高度化しています。ハッキング、データ漏洩、フィッシング、ランサムウェア攻撃などが頻発し、企業や個人のセキュリティが脅かされています。デジタルフォレンジックは、これらの犯罪を明らかにするための重要な手段となります。

法的義務の遵守

多くの国では、企業や組織に対してデジタルデータの管理や保護が法的に求められています。デジタルフォレンジックは、法的トラブルや訴訟に対する適切な対応を可能にし、企業が法律を遵守する手助けをします。

企業の信用維持

デジタルフォレンジックは、サイバーインシデントが発生した際に迅速な対応を可能にし、企業の信用維持にも寄与します。実効性のある調査を行うことで、顧客や取引先への信頼を高めることができます。

発展の経緯となったできごと

デジタルフォレンジックは、1980年代末にコンピュータ犯罪が増加する中で発展しました。その初期の段階では、コンピュータのハードウェアやファイルシステムからデータを復旧することが主な焦点でした。しかし1990年代以降に、特に犯罪捜査において、デジタル証拠の扱いは不可欠なものとなり、その技術も飛躍的に発展してきました。そしてインターネットの普及やモバイルデバイスの登場に伴って、デジタルフォレンジックの対象範囲はクラウドストレージやIoTデバイスにまで及ぶようになったのです。

O.J.シンプソン事件

デジタルフォレンジックが注目を集めるようになったきっかけの一つに、1994年に起きたO.J.シンプソン事件が挙げられます。この事件では、容疑者と被害者の間の通話記録や、現場に残された血痕のDNA鑑定の結果が重要な証拠となりましたが、その信頼性や解析方法について多くの議論を呼び起こしました。事件当時、DNA鑑定のデータはコンピュータで管理されており、そのデータの信頼性や改ざんの有無が大きな問題となったのです。デジタル証拠は容易に改ざんされる可能性があるという問題点も明らかとなり、その信頼性を確保するための厳格な管理が必要となりました。その上で、犯罪捜査におけるデジタル証拠の重要性が認識され、デジタルフォレンジックの分野が急速に発展する契機となりました。

ソニーBMG製CDのXCP問題

2005年にソニーBMGが発売した音楽CDに、コピー防止のためのソフトウェア「XCP」が搭載されていました。このXCPは、ユーザーのPCに許可なくソフトウェアをインストールし、セキュリティ上の脆弱性を引き起こし、悪意のあるソフトウェアが侵入するリスクを高めました。XCP問題は隠れたソフトウェアやアクティビティを調査する難しさを浮き彫りにし、フォレンジック調査での精緻な証拠収集技術の発展を促し、不正にインストールされたソフトウェアやマルウェアの解析技術が進化しました。

調査手法

デジタルフォレンジックの調査は、まるでパズルを解くような綿密な作業の連続です。以下は、その主なステップです。

① 証拠の収集

デジタルフォレンジックの第一歩は、関連するデジタルデータの収集で、コンピュータ、スマートフォン、タブレット、クラウドサービスなど、多様な対象デバイスから証拠となる情報を取得します。法律に則った方法でデータを採取し、データの改変や消失を防ぐために厳密な手順を守ることが必要です。

② イメージング

証拠能力を維持するために、対象デバイスの完全なコピーとしての「イメージ」を作成します。イメージを作成することで、元のデータには触れないように残します。これにより、元のデバイスのデータを保護しつつ、データの分析が可能となります。

③ データの分析

テキスト、画像、ログファイルなどのデータを分析し、必要な情報を抽出して証拠の特定や検証を行います。この段階では、特定のツールやソフトウェアを用い、必要に応じて復元作業も行います。一般的な分析作業には、リカバリー、ファイルシステム分析、ログファイルの解析が含まれます。

④ 結果の報告

分析の結果を文書化し、報告書を作成します。この報告書は、法的手続きや内部調査での証拠として使用されることがあるため、結果は明確かつ再現性のある形で提出される必要があります。また報告書は、非専門家にも理解できるように配慮されることが求められます。法廷で証拠として使用する場合には、デジタルフォレンジックの専門家が結果を説明し、他の証拠と並べて提出します。

⑤ 証拠の保全

最終的に、収集した証拠は長期間保管されることが要求されます。特に裁判の場合、デジタルフォレンジックは適切なプロセスに基づいた証拠の保全が求められ、ハッシュ値(データの指紋)を用いて改ざんが行われていないことを確認します。

必要とされる技術

デジタルフォレンジックでは、さまざまな技術やツールを駆使してデータの分析・解析をします。

フォレンジックツール

デジタルフォレンジックのツールとしては、ファイル復元ソフトウェア、データ解析ツール、ネットワーク解析ツールなどが含まれ、商用ソフトウェアの他に、オープンソースのフォレンジックツールもあります。

データ復元技術

デジタルフォレンジックでは、必要な証拠を確保するために、削除されたデータを復元する技術が重要です。これには、ファイルシステムの理解が欠かせません。具体的には、ファイルシステムの構造や動作を熟知することが、復元の成功に繋がります。

ネットワークフォレンジック

ネットワークフォレンジックは、ネットワーク上のデータ通信を解析するプロセスです。ネットワークトラフィックのログを取得し、不正アクセスやデータ漏洩の兆候を探ることができます。

モバイルフォレンジック

ネットワークフォレンジックは、ネットワーク上のデータ通信を解析するプロセスです。ネットワークトラフィックのログを取得し、不正アクセスやデータ漏洩の兆候を探ることができます。

クラウドフォレンジック

クラウドストレージの普及に伴い、クラウドフォレンジックの重要性も増しています。クラウドサービスの提供者との連携が必要で、データ取得の難しさが伴いますが、重要な証拠が多く保存されている可能性があります。法律的な考慮事項についての理解も求められます。

法律と倫理

デジタルフォレンジックは、法律や倫理に関する複雑な問題を伴います。

プライバシーと法的要件

デジタルデータの収集や分析では、個人のプライバシーを尊重し、個人情報が含まれている場合にはその取り扱いに注意することが求められます。また法的手続きで使用される証拠は、データの収集前に適切な承諾を得た上でデータを収集し、解析のプロセスを文書化し、再現可能性のある形で結果を提示することが重要です。さらに、デジタルフォレンジックの手法が適切に行われていることを証明するためにも、法的手続きを遵守します。

知的財産権の遵守

デジタルデバイスにおけるデータには、知的財産権が関連する場合があります。無断でのデータ取得や使用は法的問題を引き起こす可能性があるため、十分な注意が必要です。

倫理的考慮

デジタルフォレンジックの各手続きや決定には倫理的な考慮が必要です。調査者は中立性を保ち、自己利益のために情報を利用しないことが求められます。

今後の展望と課題

デジタル技術の急速な発展に伴い、デジタルフォレンジックもまた新たな可能性と課題に直面しています。

AIと機械学習の活用

デジタルデータ人工知能(AI)や機械学習は、証拠分析のプロセスを加速し、より高度で効率的なデータ解析を可能にします。膨大なデータの中から有益な情報を抽出するためのツールが開発されつつあり、膨大なデータから重要なインサイトを抽出する能力が向上します。

サイバーセキュリティの強化

デジタルフォレンジックは、サイバーセキュリティ業界全体の強化に貢献します。調査結果は、企業や組織のセキュリティプロトコルを改善する上で有用です。

IoTデバイスのフォレンジック

IoTの普及により、データの生成速度と量は増加する一方で、新たな証拠源を提供します。これらのデバイスからのデータ収集と解析は、犯罪調査において重要な役割を果たす可能性があります。しかし、これに対応するためには、より高度な解析手法や自動化されたプロセスが求められています。

グローバルな法的枠組み

デジタルフォレンジックは国境を越えた問題でもあるため、国際的な法的枠組みの整備が急務です。各国での法律や規制の整合性を図る必要があります。

まとめ

デジタルフォレンジックは、サイバー犯罪やデジタルデータに関連する事件の解明において不可欠な役割を果たしています。データ収集、保存、分析のプロセスを通じて、法的証拠を提供することができ、サイバー犯罪の増加や企業のセキュリティ強化が進む中、デジタルフォレンジックの重要性はますます高まっています。

デジタルフォレンジックの技術や手法は、過去の重大事件や技術の進展を背景に進化してきました。今後もAIの活用やIoTデバイスの解析などによって、さらなる発展が期待されます。その一方で、法律や倫理的な課題にも対応する必要があり、グローバルな法的枠組みの整備も重要な課題となっています。

この分野の専門家は、法律、技術、倫理に精通した人材が求められます。デジタルフォレンジックの理解と活用は、これからの犯罪の捜査や企業のセキュリティ対策において欠かせない要素なのです。

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