もつれた量子が起こす奇跡!

量子もつれで未来が変わる!?

更新日:2025.02.25 投稿日:2025.02.25 情報科学

執筆者:VNW事務局 コラム担当

ハイゼンベルクによる行列力学の研究と、シュレーディンガーによる波動力学の研究がきっかけとなって、量子力学という新しい物理学の分野が誕生してから100周年にあたる今年2025年は、量子力学にとっての記念すべき年になります。

国際連合は2025年を「国際量子科学技術年(IYQ:International Year of Quantum Science and Technology)」と定め、量子科学とその応用に対する一般の認識を高めることを目指しています。量子科学は、私たちの世界の基盤を成す物理法則を探求し、量子力学の原理を利用して新しい技術を開発する分野です。量子コンピュータ、量子通信など、画期的な応用が期待され、これらの技術はすでに研究機関や産業界で活発に研究開発が進められています。

IYQ2025という機会に、難解ではあるものの、その応用技術が既に身近な製品にも幅広く使われている量子科学についておさらいし、今後の展望を探ってみましょう。

広く応用されている量子力学

電子や光子に代表される「量子」と呼ばれるナノサイズ(1メートルの10億分の1)以下のミクロの世界では、おなじみのニュートン力学は通用せず、「量子力学」というとても不思議な物理法則が支配しています。

その量子力学の中心概念の一つに「粒子と波動の二重性」がありますが、電子デバイス(トランジスタ、集積回路など)やオプトエレクトロニクスデバイス(レーザー、発光ダイオード、フォトダイオードなど)という、私たちの現代社会になくてはならない根幹部品は、全てこの量子力学の特質によって動作しています。正に現在のICT社会は、量子力学の恩恵によって成り立っているのです。

この量子力学の応用の実例は、私たちの日常生活のあらゆる場面で見られます。例えば、スマートフォンやコンピュータの心臓部である半導体チップは、量子力学の原理に基づいて設計されています。これらのデバイスでは、シリコンのバンド構造と電子特性が量子力学的に制御され、トランジスタとしての機能を果たしています。

オプトエレクトロニクス分野でも、量子力学の応用は顕著です。オプトエレクトロニクスデバイスは、電子と光子の相互作用を量子力学的に制御することで機能しています。例えば、現在の照明やディスプレイに欠かせない発光ダイオードは、半導体の中で電子がより低いエネルギー準位に移るとき、その差分の電子のエネルギーが直接光子に変換されて、非常に高い効率で光っています。また太陽電池では、逆に光子のエネルギーが半導体中の電子のエネルギーを直接押し上げることで、電流を生成しています。

このように、量子力学の応用技術は私たちの生活に深く浸透しており、スマートフォンから家電製品、さらには通信や太陽光発電まで、私たちが日常的に使用するほぼ全ての電子機器や電化製品に、量子力学の原理が活用されているのです。

新たなステップへ

このような量子力学の応用が、今まさに新しいステップに移ろうとしています。

「粒子と波動の二重性」については、早くから実験検証も成されて、理解が広がりました。しかしさらに難解な「量子の重ね合わせ」や「量子もつれ」という概念は、因果律に基づく我々の直観には全く反するものであり、あのアインシュタインでさえ強い懐疑心を抱いていました。

量子の重ね合わせとは、極微の世界では、ある粒子が異なる状態で同時に存在できるという現象であり、量子力学では非常に重要な概念です。有名な例として、「シュレーディンガーの猫」という思考実験があります。箱の中に猫と特殊な仕掛けの毒薬が入っており、ある確率で仕掛けが働くと毒薬が放出されて猫が死んでしまいますが、箱を開けるまで猫は生きている状態と死んでいる状態が同時に重なり合っている、という考え方です。物体は一つの状態しか取ることができず、猫は生きているか死んでいるかのどちらかであり、同時に生と死の状態を取ることはないという日常的な古典力学の実在性の概念とは、全く相いれないものです。

また量子もつれとは、2つの粒子が量子もつれ状態という特別な相関関係にあると、あたかも1つのように振る舞う現象です。例えどんなに遠く離れていても互いに瞬時に影響し合い、片方の粒子の状態を観測すると、もう片方の粒子の状態も瞬時に決定されるというものです。この現象は、物体は局所的な相互作用しかしないと考える古典物理学では全く説明できません。量子もつれは、この局所性の限界を超えた現象なのです。

実在性:物理量は観測される前から定まった値を持っているという考え方と、局所性:物体の性質は近傍にあるものによってのみ影響を受けるという考え方、すなわち古典力学による局所実在論が正しいのか、それとも量子力学の描く奇妙な世界が正しいのかを実験的に確かめる方法が、1964年にジョン・スチュワート・ベルによって提唱されました。詳細な説明は省略しますが、我々が慣れ親しんでいる局所実在論が正しければ必ず成り立つ条件を、不等式の形で表現したのです。そしてこの不等式が成り立たず、量子力学が描く現象の方が正しいことを、アラン・アスペクト、ジョン・クラウザー、アントン・ツァイリンガーらの各グループが実験により検証しました。この功績で、2022年のノーベル物理学賞が3博士に授与されています。しかし、ベル博士は1990年に既に亡くなっており、存命の人物にのみ贈られるノーベル賞受賞対象にはなりませんでした。

こうした基礎研究の積み重ねを経て、量子力学の中でも理解しがたい量子の重ね合わせと量子もつれは、いよいよ魔法のような技術として、実際に使われる段階になってきているのです。それでは、その具体的応用の代表である、量子コンピューターと量子通信について、見ていきましょう。

量子コンピューター

量子コンピュータは、量子力学の重ね合わせと量子もつれという物理法則を利用して、従来のコンピュータとは全く異なる原理で動作します。

従来のコンピュータではビットが0または1の状態を取るのに対して、量子コンピュータは量子ビット(キュービット)という、0と1が重ね合わせの状態にある特殊なビットで計算を行ないます。1つの量子ビットが0と1の状態を同時に持つために、n個の量子ビットがある場合には全体としては2^n個の状態を同時に表現することができるのです。さらに量子もつれにより、複数の量子ビット間には特殊な相関関係が生じ、複数の計算を同時に実行することが可能となって、計算速度を飛躍的に向上させることができるのです。

量子計算のメリットは、実感として理解しがたいので、例え話で考えてみましょう。たくさんの分かれ道がある迷路を探索する場合、従来のコンピュータでは、1つの道を選んで行き止まりまで進む ⇒ 行き止まりになったら別の道を選び直す、といった試行錯誤を力任せに何度でも繰り返してゴールにたどり着く道を探します。それに対して、量子コンピュータでは、重ね合わせの状態を利用して全ての道を同時に探索する ⇒ 量子もつれを利用してそれぞれの道を進む探索者の情報を共有する ⇒ そしてゴールにたどり着いた探索者の情報だけを取り出します。このようにして、量子コンピュータは複数の可能性を同時に探索することで、従来のコンピュータよりも格段に効率的に問題を解くことができるのです。

この量子ビットを実現するための方式として、超伝導方式、イオントラップ方式、光量子方式、シリコン量子ドット方式などの、様々なアプローチの研究が、世界各国で競い合いながら行われています。ただし実用レベルの量子コンピュータ実現に向けては、外部からのノイズに弱くエラーを起こしやすい量子ビットの安定性を高めてエラーを訂正する技術の開発が急務、複雑な計算を行うためには多数の量子ビットを高度に集積化することが必要、量子コンピュータの能力を最大限に引き出すための画期的なアルゴリズム(計算手順)の開発も必要、などといった課題も多く残っています。

量子通信

量子通信でも量子ビットを利用し、量子ビットが0と1の重ね合わせ状態を取ることができるため、量子コンピューターの場合と同様に、n個の量子ビットがある場合には2^n個の状態を同時に表現できます。つまり、同じ数のビット数でも、量子ビットを使用する方がはるかに大容量の通信が可能になります。量子ビットの数が増えるほど、同時に表現できる情報量は指数関数的に増えるため、量子通信では桁違いの多くの情報が、短時間で送信可能となるのです。

また量子通信は、量子もつれを利用して超高セキュアな情報伝送を実現する技術です。もし盗聴者が情報を盗もうとすると、量子ビットの状態が壊れてしまうため、盗聴者は情報を正しく読み取ることができません。例え話で言うと、盗聴者が手紙を覗こうとすると、魔法の力で手紙の内容がめちゃくちゃになってしまい、読めなくなるようなものです。盗聴された情報を復元することも不可能になるため、 絶対に盗み見されない手紙を送ることができるのです。そして必ず痕跡が残るため、盗聴を検知することもできます。量子暗号は量子通信の重要な応用の一つであり、量子もつれを使うことで、量子コンピュータでも解読が不可能な理論的に究極の安全性が保障され、今後のネットワークセキュリティにおいて革命的な役割を果たすと考えられています。従来の暗号のように、解読するのが困難というのではなく、原理的に盗聴ができないのです。

ただし、量子通信の実用化に関してもたくさんの課題が残っています。量子通信は、光ファイバー中を光子が伝搬する際の損失や雑音の影響を受けやすく、長距離化が難しいのです。また量子状態は外部環境の影響も受けやすいので、安定した通信を実現するためには、高度な制御技術も必要になります。そして大型で高価な量子通信装置を小型化・低コスト化して、既存の通信インフラとどのように融合させるかが、普及に向けての大きな課題なのです。

まとめ

量子力学の重要な概念である量子もつれは、2つの粒子がまるで魔法のように結びつき、瞬時に影響し合うという不思議な現象です。そして量子の重ね合わせは、1つの粒子が複数の状態を同時に持つことができるという現象です。これらの我々の常識外にある奇妙な現象は、私たちの未来を大きく変える可能性を秘めています。

量子コンピュータにおいては、量子もつれと重ね合わせを利用することで、従来のコンピュータでは不可能だった複雑な計算を高速に行うことができます。重ね合わせを利用して複数の計算を同時に実行し、量子もつれを利用して計算結果を効率的に取り出すことができるのです。これにより、新薬開発や材料開発、AIの進化など、様々な分野で革新的な進展が期待されます。

また量子通信においては、量子もつれを利用することで、理論的に完全に安全な通信を実現できます。さらに重ね合わせを利用することで、桁違いの大容量通信が可能になります。これは、金融機関や政府機関など、機密性の高い情報を大量に扱う分野において、非常に重要な技術となります。

量子もつれや重ね合わせの、摩訶不思議な現象の可能性は、私たちの未来を劇的に変える力を持っていると言えるでしょう。今後の研究開発によって、これらの魔法のような技術が、想像を超える恩恵を社会にもたらすかもしれないのです。

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